全日本エンデューロ選手権 Rd5/6 恋の浦 DAY1
「攻めること、の難しさ」
いよいよ2019年の全日本エンデューロも最終戦。6戦のうちの2戦は、初の開催地である福岡県恋の浦である。福岡市内からおよそ車で40分のアクセスの良さと、オフロードコースに珍しい「海沿い」の景勝地であること、そしてジムカーナコースなどを有する一大モビリティランドであることから、オンタイムレースをするにもうってつけと言えるかもしれない。広島のテージャスランチと、似たような規模感で、さらにアップダウンが激しい。開催前まで雨が降ったりと、極悪なコンディションが予想されたものの、当日は快晴であり、コンディションもベストであった。
IA 不調を抱える釘村忠、好調の鈴木健二
日本のオンタイムエンデューロ史において、2019年は大きな意味を持つ年になった。先におこなわれたISDEポルトガル大会で、釘村忠が日本人初のゴールドメダルを獲得したからだ。だが、その犠牲も…釘村は骨折は免れていたモノの、肩を負傷しており、この最終戦も万全とは言えないレースウィークを迎えていた。
発売されたばかりの新型YZ250FXを駆る鈴木健二は、身のこなしも軽く、序盤からペースを作っていく。釘村もこれに応える形で飛ばしていくものの、どうにも鈴木のタイムに迫れず、鈴木が1番時計をどんどん更新していく。コースは、難しい部類に入るため、トップ2は最初の数周で攻略するとさらにそのタイムを加速させた。3番手には、ディフェンディングチャンピオンである前橋孝洋が名乗りを上げたが、4つめのテストで失墜。安定してタイムを刻む保坂修一が代わって3番手を死守した。
後半になると、釘村はCRF250RXにも乗り慣れてきたこともあって、鈴木のタイムを脅かすレベルまでペースアップ。鈴木もこれを確認して逃げ切り体勢へ移行し、結果41秒のリードをもって鈴木の圧勝。3位保坂は、3分ほど離れてしまい、本人もトップ2との壁を感じる結果。
鈴木健二
「自分的には順当。忠も本調子ではないし、まぁまぁですね。コースはすごくよかったです、かなり難しいですね。後半になってパサパサな路面になって、さらに難しくなりましたね。ワダチの中には根っこも隠れているしね。だから、余計に保坂たちとの差が出ちゃったんじゃないかな。一つ一つのセクションを、走るだけでいっぱいになってしまうと思うんです。このコースを攻められるようになるのは、なかなか大変ですよ。ちなみに、広いコースではなかったから、僕はYZ125Xが一番速いコースなんじゃないかなと思いました」
釘村忠
「体よりも、アルコピア以来乗っていなかった(ISDEはCRF450RX)CRF250RXで参戦だったので、なかなかカンをとりもどすのが大変でした。終盤には慣れてきたので、明日は健二さんといい走りができると思いますよ。ISDEを走ったから、今日の走行量では全然疲れてません。あと5周くらいあってもいいくらいです。このまま、いいペースで走れればタイトルも大丈夫ですしね」
保坂修一
「コースを攻略して、後半にむけてタイムをあげていけるかどうか、が課題です。今は、最初から最後までタイムが安定しています。明日、いかに攻めることができるのか…その辺を今日の夜にしっかり作戦をたてて臨みたいと思います」
IB モトクロス組が席巻
IBクラスは、序盤を村上洸太が一番時計を連発したが、中盤になって榎田諒介が逆転。レース数足りず、昇格に関係の無い二人がレースを席巻する形であった。
榎田諒介
「かなり走れて、タイムも出ていたので好印象でした。IBでどうか、というよりIAで走ったらどのレベルか、が気になります。現状では、わりといいところを走れているので(3番手保坂と同レベル)、よかったなと。地方選でIAに昇格したので、来季はIAで愉しみます」
W 地元の菅原聖子が圧勝
すでにタイトルが決まっているウィメンズクラスは、福岡を拠点にしている菅原聖子がぬきんでて優勝。1分以上のロスをしてしまった最終テストをのぞけば、すべてトップタイムである。
菅原聖子
「地元なんで、勝てて当たり前ですよね。この恋の浦は、路面も豊富ですごくいいコースです。このJECで使っているのは、普段の地元のレースでも使っているルートですから余計あたりまえかなと…最後の周で、ミスしてリカバリーにも時間がかかってしまったんですよ。それが悔しい」
全日本エンデューロ選手権 Rd5/6 恋の浦 DAY2
「釘村忠、突き抜ける。魅せたジャパンの底力」
事前情報では1日目(土曜日)が晴れ、2日目(日曜日)が雨だった。特に、会場の恋の浦は、地元の慣れた人間から言わせれば「雨が降れば豹変。木の根も多く、難易度はぐっと上がる」とのこと。ところが、天気予報は次第に回復。土曜日までには「レースが終わる頃に、ようやく雨が降り出す」という予報へ変わっていて、事実日曜の朝は晴れ渡っていた。
2日目のコースは、1日目を踏襲したもの。ただし、テストはスタートとゴールの位置がずれており、若干雰囲気は変わる。雨予報を加味していたこともあってか、2日目のテストは1日目よりも短めであった。
IA 釘村忠がレースを完全支配、ISDEで学んだライン取りで鈴木をも寄せ付けぬスピード域へ
1日目を圧勝した鈴木健二だったが、2日目はスタートしてすぐに失敗に気づくことになった。雨予報を信じていた鈴木は、1日目のワークタイムで圧低めのムースを装着。序盤は、それでも1番時計を出していたが、アンダーが出てしまうフロントに悩まされていた。恋の浦では、タイムチェックがパドック付近にあるため(一般的に、オンタイムエンデューロではパドック付近にタイムチェックがある)、1周目を終えたときに鈴木は「2周目が終わったら交換しよう」と思っていたという。ところが、これが誤算だった。周回ごとに変動するオンタイム式の今回、2周目ではタイムが余らなかったのだ。
しかし、それを差し引いてもこの日の釘村は乗れていた。4スト250に慣れきれなかった1日目から、一気にそのマシンとの距離感をちぢめた釘村は、明らかに1日目と異なる高回転域を多用する乗り方にチェンジ。450乗りとしても、かなり低回転を多用する釘村だが、180度乗り方を変えたようなイメージだった。タイムも圧倒、一番時計を連発して鈴木を引き離しにかかる。鈴木は言う。「忠とラインが違うことに途中で気づいて、自分も忠のラインをトレースすることにしたら、2?3秒上がった。でも、その周にはさらに忠が2?3秒速くなるんだよ」と。釘村は、ISDEで学んだことを実戦へ転用していたのだ。「トップライダーはアウト側のバンクを使うんですが、ただそこを走るのではなくコーナー入り口が開けるタイミングなんです」と。少しずつ、学んだモノを形にしていくなかで、釘村はこのレースにおいてタイムを急速に縮めていった。特に、1つめのテストでは、3分26秒が釘村・鈴木にとっての「壁」となっていたが、後半で3分23秒を出した次の周には、3分20秒。この攻めぶりに鈴木は「この歳では、そこまでマージンを削れない」と舌を巻いた。結果、40秒の差で釘村が勝利の末、今季チャンピオンを決定。3位には、やはり1日目同様保坂修一がつけることに。
釘村忠
「転倒もなかったし、まずまずだったと思います。フラットなフィールドで、スピードを落とさないように意識して走っていました。ISDEでわずかですが見れたものを、活かそうとしています。具体的には、同じホンダに乗るトーマス・オルドラティがイメージの中にあります。あとコーナー1つずつ、コンマ5秒縮めることができれば、来年ISDEに出られた時にいい結果を残せると思って、取り組んでいます」
鈴木健二
「疲れました。ムースがタレてきてからは、フロントのアンダーに悩まされてしまいましたね。フラットなコーナーで、攻めきれないのが敗因です。まぁ、それ以前に今回は忠が本当に速かったですね。僕は、あそこまで攻めきれない。歳だし、限界まで来ているなと思います。忠はまだ若いからか、攻めることができるのでしょう。いま危惧するのは、忠のあとに続くライダーをはやくみつけなくてはいけないということです。僕がやめたら、忠もそこまで攻められないと思う、誰もライバルがいなかったら、マージンとって走るようになっちゃいますよ」
保坂修一
「昨日たてた課題は、克服ならずでした。ここをつめればもう少しタイムをつめられるかな、と思っていたところがあるんですが、コースも荒れていて…。タイムチェックでは、3分26秒の壁(前述)の話しになっていたりしたんですが、釘村さんも健二さんもそれをあっさり突破していっちゃって、僕には無理。やはり実力不足でした。釘村さんのラインをみせてもらったりもしたんですが、根本的に考え方が違うと思いましたね。僕はそもそもおおざっぱだったなと思います。ワダチひとつにしても、ワダチの中ということではなく、壁面をうまくつかうとか、かなり細かいところまで考え尽くしているんだなと。このオフシーズンで、しっかり実力を伸ばして来年につなげたいと思っています」
IB 1日目を挽回、村上洸太が最終戦を撃破
IAの表彰台圏内を狙えるタイムでトップを競っている榎田諒介、そして村上洸太が、この2日目もIBクラスを席巻。1日目は榎田に軍配が上がったが、2日目には村上がリードする展開に。榎田は、おいつめられる中で中盤に大きくミスしてしまう。村上、榎田、陣馬の順でフィニッシュ。タイトルは、陣馬に決定した。
村上洸太
「1日目は、1周目でタイムがよかったからか、そのあとリズムを崩してしまったんです。それに気づいてはいたんですが、テスト中に修正はできなかったんですよね。コースがそんなに難易度高くなかったところもあって、1周目から修正できたのがよかったです。特にウッズのなかのラインは、ふかふかのサンドがたまりはじめていて、かなりグリップが悪くてですね、草の上を狙ったりしたのが好結果を生みました」
ウィメンズ 菅原聖子、パーフェクトウィン
1日目で圧勝の菅原が、同じく2日目も2番手を引き離して勝利。
菅原聖子
「ミスもしてしまって、個人的にはうまくいかない日でした。今回は、承認クラスに楠本菜月ちゃんが出ていてすごく速かったですね。今後は、彼女のようなモトクロス経験のあるライダーにも、どんどんJECに挑戦してもらえたらいいのにな、と思います」